延長コード
悪党パオン/最初の犯行
第一稿
●羽田家前・道路
抱き合っている羽田敬次と鵜原集子。一旦離れ唇を重ねる。
羽田「もう、行くよ…」
集子「うん…」
再度、抱き合う二人。集子、羽田の肩越しに羽田家の庭を見やる。羽田から離れる集子。
集子「何…あれ」
振り返る羽田。羽田家の出窓から黒く巨大な筒が突き出している。筒の先端から煙がモウモウと湧き出ている。呆然とそれを見る集子と羽田。
集子「火事…」
筒が上下に動く。煙の勢いは変わらない。
羽田「いや、違う。俺の家の中で誰かが何かやっているんだ」
集子「誰なの…」
羽田「それは、わからない…。泥棒か嫌がらせか。とにかく見て来る。集子はここにいてくれ」
集子「危ないよ。誰か呼んでこようよ」
集子、羽田のシャツの裾をぎゅっと掴む。羽田、集子の手を優しく払いながら家へ向かって行く。
羽田「大丈夫だ。すぐ戻る」
立ちすくむ集子。
●羽田家・玄関
そっとドアを開け中に入っていく羽田。
●羽田家・リビング
足音をしのばせて入ってくる羽田。リビングに橙色の象の仮面を被った男(パオン)が両手で筒を抱え窓の外へと突き出している。
呆然とする羽田。覆面男(パオン)、羽田に気づき筒を窓の外へ放り投げる。
●羽田家前・道路
心配そうに羽田家を見つめている集子。窓からこぼれ落ちる筒をみて肩をすくめる集子。思わず漏れる声
集子「羽田くん…」
●羽田家・リビング
対峙しているパオンと羽田。じりじりと後ずさりするパオン。
羽田「お前…誰だ…」
動きを止めるパオン身を屈め立てた中指を口にあてるパオン。緩慢な動き。パオン、顔に手をやり、覆面を引き剥がす。覆面の下から現れる同じ覆面。
急に身を翻して後方の勝手口へ向い、外へと飛び出していくパオン。慌てて後を追う羽田。
●羽田家・裏手
飛び出してくるパオン。柵を乗り越えそのまま逃げていく。後を追う羽田。
●羽田家・リビング
おそるおそる入ってくる集子。誰もいないリビング。窓から外を眺めるとうち捨てられた黒い筒。床には象の覆面。
●人気のない道路
逃げるパオン。必死に追う羽田。ペースの落ちないパオン。羽田との距離が開いてくる。パオン、一旦立ち止まり羽田の方に向き直る。
羽田、手を伸ばせばパオンに触れられるところまで近づく。しかしパオン、また全力で疾走する。取り残される羽田。
●ため池・周辺
完全にバテている羽田。前を歩いているパオンをもつれる足で必死に追う。パオン突然、進路を変え小道に入っていく。
●ため池に続く小道
よたよた進んでいる羽田。羽田が通り過ぎ後、脇の薮に潜んでいたパオンが姿を現し羽田のあとを前かがみの姿勢を保ったままつけてゆく。
●池のほとり
薮がひらけ池が眼前に広がる。辿り着く羽田。だが、そこにパオンの姿はない。パオン、羽田の後ろから急襲する。
羽田を羽交い絞めにして池に連れて行くパオン。羽田、体力を消耗しきったか反抗するがパオンを振り払えない。
そのまま倒れこむ二人。パオン、羽田の髪の毛をわしづかみにして池の中に突っ込む。痙攣したように撥ねる羽田。
ひるまず羽田の頭をさらに力を込めて押さえ込むパオン。動かなくなる羽田。
●ホテル・立食パーティー会場
スタンドマイクの前に立つ喪服姿の宮田。
砂山「えー本日はお集まりいただき、故人も喜んでいると思います。僕らの親友であった羽田君を偲ぶとともに、
事件の一刻も早い解決と犯人の逮捕を願って、献杯」
砂山がグラスを上げると会場にいた萩野、三田、西、田部井もグラスを上げる。
その傍らにはグラスを上げたまま固まっている集子。しばらくして全員グラスを下げる。
× × × ×
会場の片隅に置かれた一人がけのソファに座っている集子。そこにグラスを片手に砂山がやってくる。集子の隣のソファに座る。
砂山「お久しぶりです」
グラスに口をつけたまま軽く頭を下げる集子。
砂山「結局、なんだったんですかね、羽田のアレは」
集子答えない。砂山、息を軽く吐く。
砂山「失礼かもしれないけど、僕、集子さんの言ってることに強い不信感、持ってます。
わけわからないです。筒から煙とか。象の仮面が落ちてたとか。犯人も捕まってないし」
集子、うつむいたまま。
砂山「何か知ってるんじゃないですか」
集子「疑ってるの?」
砂山「そういう、わけじゃないです。ただあまりにも不可解じゃないですか。本当のこと
が知りたい…というか気になるんです」
集子「…私だってそうだよ。砂山くん、萩野さん、三田くん、西くん、田部井さん…何か知ってることあるんじゃないかって、思ってるし」
三田「砂山!」
スタンドマイクの横に三田が手招きしている。
砂山「じゃあ…」
立ち上がり、去っていく砂山。マイクスタンドを囲むように立っている萩野、西、田部井、三田。砂山がその端に加わる。
西「(マイクに向かって)ではこれから羽田に届くように彼が好きだった唄を皆で歌いたいと思います」
会場に流れる荘厳なハミング。集子はうつむいたまま、グラスに口をあてる。
終